遠い夢を見ているような熱い恋の予感
そんな甘い気持ちも一瞬で消える恋
想えば想うほど苦しくて…

決められる?決められない?
心の奥で叫んでいる
あたしの何かか叫んでいる

いつまでこうしているんだろう
早く決めなくちゃ
何かを決めなくちゃ

そんな想いに封じ込められたあたしの心





 何度もキスをする
 エレベーターの中で、ドアの前で、ソファーで、バスルームで、ベッドで
小さく、激しく、唇を重ねる
 指先から熱くなり、身体の中へ闇がとけていくような時間の中を落ちていく


 愛じゃないね。たぶん
 もしも愛なら、こんなことじゃすまない
「好きだと言って」
「好きだよ」
「うそ」
「さあ、よくわからないよ、そういうこと…でもさ、好きなんだよ、
じゃなきゃ、いっしょにいないと思うしさ」


 誰だって、こんな夜があるのだ
 人はひとつの顔でなく、千の顔ぐらいはもっているのだとすれば
「ひとつじゃなきゃ、いくつでも同じことだよ」そう言った人もいた
 そういえば私はここにいる人と次に逢う日など約束したことはない
 次にどうなったとしても不思議ではなく、彼とは、彼と逢うことでしか
彼が見えない。そして、それは彼もたぶん同じはずだ


 フルネームをすぐに言えない
さっきどこで誰と何をしてきたのかを気にしたりしない
 それでも唇を重ねた記憶は私を彼へと走らせることになり
どこかで、彼を探している


 逢いたい、逢いたい、でも逢えない
生まれたばかりの恋は弱く傷つきやすい
壊れながらはじまっていくこの恋は
いつしかビートに変わる
 この熱いビートは、徐々に徐々に私の心に広がるのだ



 テラスの向うに明け方の空。涙でにじんだ





「どんなふうに、私たち、あえなくなっていくのかなぁ」
 つぶやくように、きいた
どんな答えを、期待したのだろう
何も考えてはいなかった
ただ、今しか口にできない、今、口に出さなければと
そんな想いで聞いたのかもしれない


 だんだん話すことが失くなって、連絡が途絶え
どちらからか距離が生まれる
やがて、別れさえ口にせず、口に出せる頃はもう痛みはなく
哀愁が優しさを演出する、そんな別れもある


 逢いたい、と思う。
でも、幸せになれる気がしない、とも思い始めている
たぶんそれは、あなたも同じなのだ.
私たちはどこかが深く似ているから


「どうすればいいんだ。オレをどうしたいんだ?
でも、君の思いどおりにはならない.
君は君の望んだことが叶った時、
それを壊したくなる、そういう人だからね」
 遠くからの電話で、あなたが言った


 涙にはならない。
涙の行方で2人をつなぎとめることはもっと出来ない.
 どうしたらいい?
 胸の中は嵐のまま、長い沈黙が続いた
 あなたは私をよく知っている、わかっているのだ
それは私の中のあなたよりももっと、かもしれない
そのことが一番悲しかった
「愛してる」と「さよなら」が並んでいる
心の中で重なっている


 あなたが欲しい、だから動き出せない私がいた
永遠に続きそうな沈黙を
あなたは「切るよ…」と受話器を置いた



 きれいな秋が見たこともないはやさで冬に染まりそうな予感がした





 どんなふうにけんかをしても、いつも別れにならなかった
 このまま、もう逢えなくなるだろうかと、
何度もそんな気分には襲われたが
どこかで自信があった


 一週間もたてば、麻薬のように身体の中の何かが暴れだし
何もなかったようにあなたを追い求めた
 普通の恋人同士のような恋とは違っていたからこそ
強い力でひきあっていたような気がしていた


 でも、この恋にゆくえはなかった
「私たち、どうなればいい?」
「どうなるって?」
「ふたりでできることがわからないわ……」
「オレは、今のままでいいけど」
「今のままがきっと、一番いいけれど、最低だとも思うの」
 これ以上くちにはしなかったが、
「やっぱり、別れるしかないのかも…」
という思いを飲み込んで黙っている自分がいた


 私が先に疲れを感じ始めていた
 私のほうが彼を必要としていたからだ
間違いだらけの恋だよ、男友達が笑った
「どうやって、愛すればよかったの?」と、その人の胸で泣きじゃくった
「そいつと君、似すぎていたのかもしれない」その人がつぶやいた


 あれから5ヶ月。心に残っていた未練が少しづつ遠ざかる
そんなためらいの中に、私は立っている




「やっと逢えたね」

そう、口にしたら
張りつめていた何かが、一気にくずれおちた


そこからはお決まりの、狂おしいときが流れ
後にはポッカリと、心だけが残る


帰り道
透きとおった真っ青な空に、海風が冷たく渡っていった





心のこもった愛をいつもくれる彼
時には喧嘩も必要だよって笑ったけれど
あたしの心の中では、コロン!とグラスの氷がくずれた


愛してるから辛くて、ふがいない自分が許せなくて
あなたについていけない心がそこにいた


一人で決めた別れを、あなたは怒るかもしれない
もっと優しい愛をくれるかもしれない


でも、なんか、もう疲れた





わがままなあたしを喜んでくれてるんだって
ずっとそう思ってた
だけどそんなのは麻薬のような恋が去ったあとでは
邪魔になるだけのもの
そんな気持ちにあなたは気がついていない
それとも気がついてわざとやっているのかしら

それでもまだもがいて
あなたが手をさしのべてくれるのを
あたし待ってる

立ち上がろうとしても、這い上がろうとしても
焼き尽くされた心はもう、二度と元に戻れない





忘れられたように
ひとりでおきざりにされて
何もなくなってしまった今のあたし

いつも側にいるはずだったのに
言葉さえもかわさないふたりは
もう終ることさえ告げられない

次に気が付いた時には
きっともうそこにはいないのでしょうね


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