〔その1〕生後135日~

1日目〈まえぶれ〉

いつも、朝、ごきげんなのに 今日はふにふにと泣いてばかりいて おかしい・・・。
きのうなんて、ミルクを一日にたった400CCしか飲まないの。一日中ねんねしてばっかりいたし。 いま熱を計ったけど別に高くない。だけど笑わないし手足を全然動かさなくて、元気がないし寝てばかりいる。 呼んでみても目をかすかに開けるだけで、あまり反応がない。
へんだな~と思っていたら夕方になって39度も熱が出た。
いつもの小児科に連れて行ったけど先生も何で熱が高いかわからないなんて。
心配!死なないでね!

*みなさんは、子供の様子がおかしい時、どんなきっかけで病院に連れて行きますか?
私の子供たちは3人ともおとなしくて、よくねんねして時間通りに泣いてくれる赤ちゃんだったので 異常に気づくのが遅かったのかもしれません。
この日は月曜日でした。土曜・日曜と外出して《みー》をつれまわしていたのでそのせいで脱水症状になって、 ぐったりしているのかと思いました。
病院につれて行きましたが、なぜこんなに元気がないのか、熱が高いのかわからないと言われてしまうのです。 こっちは心配で、注射か点滴の一本もうって欲しくて行ったのに・・・。
お医者様が「わからない」じゃあすまされないんじゃないの?

2日目〈発病〉

明け方近く3時間くらいの間ず~っとめそめそしている。ふっと眠ったかと思うとまた泣いているの繰り返し。
いままでこんなことなかったのに・・・。朝、熱は38.7度。お昼近くなっていよいよぐったりしてきた。 熱を計ったら、デジタルの数字が1度ずつ1度ずつぐんぐん上がっていくので、怖くなって抜いてしまった。 でも39.8度までは確かに見た!
今度目を覚ましたら、やっぱり大きな病院に連れて行こう。

*ミルクはこの日ついに一日240CCくらいしか飲まなくなった。食欲がないらしい。
起きていても遊び飲みしてしまい全然ちゃんと飲んでくれない。
夜7時、おむつを替えようとした時に体の向きを変えたらビックリ!
右耳の後ろのリンパ腺が腫れているので大急ぎで救急病院に連れて行く。

あー最悪です。もしかしたら川崎病かもしれないと言われ《みー》は入院してしまいました。私の腕の中にいません。
どっちみち今日はミルクを飲まなかったから、絶対点滴をしてもらおうと思っていたけれど、そんな病気だったなんて。
先生はとても深刻そうに話していたけれど、川崎病ってどんな病気なの?
パパも知らない。私も知らない。でも先生のあの様子だととても大変な病気みたい。
助からなかったらどうしよう。そんなことばかり考えてしまいます。

*「川崎病」それは初めて耳にする病名でした。病院からの帰り道、とにかくその病気についての情報を知りたくて、本屋さんで医学書を読みあさりました。
「家庭の医学」を買って何度も何度も繰り返し読みましたが、<これといった治療法はない>という言葉だけが目に焼き付いたのです。

3日目〈妹からの電話〉

《みー》は病院でひとりぼっちです。熱が高くていやだよねー。
夕方おみまいに行ったら、ほっぺがパンパンに腫れていたのでショックでした。いたいたしくてかわいそう。
この感じではやっぱり川崎病に間違いないみたい。
でも今日はミルクを40CCずつちゃんと3~4時間おきに飲んだみたいだし、手足も動かしていたし、 「う~」とか「あ~」とか何かもんくも言ってたし、おめめもハッキリしていたのでよかった。 点滴が効いたのかしら。家にいたときよりも元気になったみたい。良かった!
朝、妹のようこ(医師)から電話をもらったとき、泣いてしまった。
いろいろアドバイスしてくれて、励ましてくれて、そして最後にひとこと「お姉ちゃんが気を落としてたらだめだよ。」と言われて・・。
わかってるんだけど。わかってるんだけどねっ・・・!
なんで《みー》がこんな病気になっちゃったんだろう。って考えてしばらくの間ボーっとしてしまいました。
ずっと長い間(退院してからも)病気とつきあっていかなくちゃならないみたい。
でも、それでもやっぱり生きていてくれる方がいいよね。
パパも早く帰ってきて病院に行ってくれたけど、こんなことがあとどれくらい続くんだろう。
・・・入院してまだたった2日なのに、もう弱音吐くの?しっかりしろずんきー!!

*3日目になって川崎病のいろいろな症状が現れてきて、やはり決定的と診断されました。
入院した病院は完全看護なので、親でも面会の時間にしか会えないのです。
そのかわり看護婦さんたちは本当に親切に、 大切に看てくださったのでありがたかったです。
半日しか会えないというのも、かえって私にとって良かったかもしれません。
今にして思えば、ずーっと苦しんでいる本人と向き合っていたら、きっとこっちまで、どうかしちゃったかも。

4日目〈症状〉

今日はおばあちゃんの仕事が休みだったので、家のことも残った子供たちのこともぜ~んぶ頼んで、 病院に3時に行くことが出来た。
起きていたんだけど何となくもうろうとしている感じ。
ずっと膝の上に座らせて抱いていたら(とても久々に抱っこしたような気がした)べそをかかなかったけれど やっぱり笑ってくれない。看護婦さんが、いまが一番いろいろと症状の出る時なんだと教えてくれた。
それが終わったら快方に向かうのかしら・・・。
きのうようちゃんも言っていたけど、やっぱり心臓に後遺症が残るのが一番心配らしい。
どうかどうか合併症が出ませんように!
熱を下げるために(そして川崎病の唯一の治療法として)ガンマグロブリンという血液製剤を使うらしいけど、 これってエイズとかの心配はないのでしょうか。
ようちゃんは大丈夫って言ってたけど。やっぱり不安。
でも、それしかないのなら、やっていただくしかないよね。
今日の《みー》はきのうより目がうつろで手足もあまり元気がなかったので、何となく悪くなってるような気がした。
気のせいだといいけど。
ミルクは100CCずつちゃんと飲んでいるらしいけど、唇もぶよぶよに腫れていて ミルクを吸うと破れて血が出ちゃうの。痛そうで見ていられない。
血圧が117の64で少し高い。大丈夫かなー。
手足にむくみも出てきたし目も充血してて、鼻の粘膜もやられているみたいで苦しそうにハーハー言っている。
がんばって《みー》ちゃん。がんばるんだよ!

*午前中にはどうやらいろいろな検査をするらしいのです。まだ首も座らない小さな体で、あちこちに針の痕があったりして、 そのうえ今日は目に見えて症状が悪化していたので、口には出さなくても心は張り裂ける思いでした。
<血液製剤>とか<エイズ>なんて単語は今までまったく関係ない世界のものだったのに、 急に自分の世界のものになってしまいました。

5日目〈さがった熱〉

今日の《みー》は37.6度まで熱が下がったそうです。手足をバタバタさせていたし少し元気になったみたい。
先生にお会いして話を伺った。
検査結果はこの症状からして、まあこんな所かなって言う数値で、 特に心配はないけれど、心臓の方は熱が下がり出す頃に合併症の出る危険があることが多いので、 まだ安心というわけではないということだった。
そうなの?快方に向かってるんじゃなかったんだ。
そんなに甘い病気じゃないんだ。ほっぺにぶつぶつが出てきたけど腫れの方は少しひいた。
まだ笑わなくて、もんくばかり言っている。
でもおもちゃをにぎってしばらく見つめて遊べるようになった。
ミルクは100CC一気に飲んだ。
少し爪が伸びてきたので、明日は爪切りを持っていって切ってあげることにしよう。
以前かかりつけだった先生も診察に来てくださったみたいです。

*熱が下がったと、ぬか喜びしたのもつかの間。そんなに簡単な病気ではないことを思い知らされました。
心臓に動脈瘤が出来て、それが後遺症として残ることが多いと、どんな本にも医者の話にも必ず出てくるのです。
一生そんな病気を抱えて生きるのかと気が遠くなるような思いがしました。
生後1年間の順調な発達というのは、何人目の子供でも親にとっては楽しみなものです。
それが病院のベットで苦しむだけで何の発達も出来ないのかと考えても気が重くなりました。
ちいさな指の爪が少しだけ(ほんの数ミリ!)伸びただけでも、あ~この子は生きているんだ~と思えて嬉しかったりしたのです。
こんなことがあると、この子は小さな体で病気と闘っているんだから、私だってがんばらなくっちゃと思えるのでした。

6日目〈自分の気持ち〉

今日はまた熱が上がったのでちょっと元気がない《みー》でした。
一進一退を繰り返していて本当に熱がもう上がらなかったり症状がなくなったりできるのでしょうか。
ずっとずっといつまでもこんな状態が続くような気がしてしまいます。
ママは自分の気持ちがしらけているようで、がんばってる《みー》に悪いなー。
だって元気になったあなたを想像できません。かといってすごく悪い事態になったあなたも 想像できるわけじゃないんだけど。
何もかも突然すぎて心が空虚になったようです。
このまま何も出来ずに、毎日病院に面会に行くだけで《みー》は嬉しいのでしょうか。
どうかお願い!心臓や脳に病気を残さないでください。そして必ず家に帰れますように。
その後もずっと普通に生活できますように!けがもできない(血が止まらないので)なんて怖い!

*毎日本人の様子が激変するので、私は自分の気持ちの持ちようがわからず、ただ右往左往しているだけ。
そんな自分を外から見ている自分がいるようなへんな気持ちでした。
何を考えても結論が出なくて、(考えたって仕方なかったのに)いろんな想像だけが頭の中をぐるぐる回っていました。
血管の中で血が固まらないようにする薬が必要で退院後もずっとこの薬を飲むと言うことで、 けがをしても血が止まりにくいといわれました。
走り回ってころんで、膝小僧をすりむくのが子供でしょう?
そんなあたりまえのことも出来ないなんて信じられませんでした。